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1月 |
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灯をけして元日と申す庵哉 |
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英訳の際に「 it's New Year's Day 」の位置について,自分の庵のみの正月であるか,それとも庵も外の世間一般も正月であるか,どちらの意味かで最後まで話し合った。最終的に後者の意味合いでこの位置に決まった。 |
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putting out the light
in my hermitage , I say
it's New Year's Day |
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愛媛大学正門 (撮影:政岡孝) |
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1896年(明治29年) |
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2月 |
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春浅く乳も涙も氷りけり |
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「 悼幼児 」というタイトルがついた句。愛弟子の子供が亡くなったという背景がある。日本語で見ると,寒さで母乳が凍っただけではないというのがわかるが,英訳では「 bereaved 」(愛する者を亡くした)「 mother 」という2語がないと成り立ちにくい。 |
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early spring
the bereaved mother's milk and tears
have frozen |
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石手寺 (撮影:政岡孝) |
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1900年(明治33年) |
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3月 |
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雛あらば
娘あらばと思ひけり |
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有名な句で英訳も多いため,同じ訳にならないよう苦労した。アメリカにはひな祭りという習慣がないため,春のひな祭りの頃に,おひな様があればなあ,娘があればなあ,という感じがわかりにくい。それで,「 the Doll's Festival 」という語を入れている。 |
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wishing I had hina-dolls
wishing I had a daughter
the Dolls'Festival |
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卒業式 (撮影:愛媛大学広報室) |
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1897年(明治30年) |
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4月 |
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花散りて
人の眠たき卯月かな |
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「 人の眠たき 」というのは,花は散るがとても満ち足りた,という感じがする。政岡孝氏の撮影による桜と青い鳥のこの写真が作品のもつイメージとぴったり合っている。 |
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the blossoms fallen
people feel sleepy
April |
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桜とオオルリ (撮影:政岡孝) |
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1894年(明治27年) |
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5月 |
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五月雨や
小さき虫落つ本の上 |
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五月雨がしていて,自分の読んでいる本の上に虫が落ちてきた,という大学のカレンダーにふさわしい句である。とても分かり易い句でイメージしやすいため,訳もつけやすかった。 |
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May rain
a small bug drops
onto my book |
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章光堂 (撮影:政岡孝) |
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1898年(明治31年) |
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6月 |
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國なまり
故郷千里の風かをる |
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これも有名な句。常磐会寄宿舎でたびたび開いていた”松山会”で「 國なまり 」を聞いた子規がたくましさや力強さを感じ,「 故郷千里の風かをる 」とふるさとを懐かしんでいる。写真は暑い中,学生が頑張っている様子がでているものを選んだ。 |
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that dialect! i
t has the fragrance of a breeze
from my distant homeland |
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工学部前 (撮影:政岡孝) |
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1893年(明治26年) |
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7月 |
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君を送りて
思ふことあり蚊帳に泣く |
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「 君 」というのは,友人である秋山真之氏のこと。米国留学の報告に訪れた真之氏が帰った後,病床についている子規が「自分が行きたかった。」「よくぞ決めてくれた。」等色々と思うことがあり,泣いたことを詠んだ句である。 |
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after seeing you off
thoughts inside the mosquito net
make me cry |
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道後駅夕暮れ (撮影:政岡孝) |
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1897年(明治30年) |
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8月 |
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夏川や
吾君を負ふて渡るべし |
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”夏川”というタイトルでいくつか詠んでいる句の一つ。中学生の頃,重信川に3人で遊びに行き,一番年下の自分が残りの二人を背負って川を渡した,という楽しい想い出を詠んでいる。 |
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the sumer river
I'll cross it with you
on my back |
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ボランティア (撮影:愛媛大学広報室) |
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1896年(明治29年) |
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9月 |
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夕月や
怒濤岩をうつて女立つ |
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この句に関しての資料が全くないため,場所等詳しいことが何も分からない。「 怒濤岩 」「 女立つ 」という語から,力強さを感じさせる。白方先生(選句者)は女子学生へのエール,または女性全般へのエールにこの句を選ばれたのかもしれない。 |
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evening moon
waves crash against the rocks
where a woman stands |
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しまなみ (撮影:政岡孝) |
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1896年(明治29年) |
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10月 |
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松山や秋より高き天守閣 |
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松山へ帰省した際に作られた句で,「松山城」というタイトルがつけられている。天守閣は写真撮影時,改修中で囲いがしてあり撮れなかった。そのため,攻められても破りにくい作りである,力強い太鼓門を選んだ。 |
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Matsuyama
the castle's tower rises higher
than autumn |
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松山城 (撮影:政岡孝) |
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1891年(明治24年) |
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11月 |
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ほろほろと
ゐろりの木の葉もえてなし |
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日記のように綴られた「病床六尺」の中の句で,旧暦9月8日につくられたもの。この作品は英語俳句にも,この句の持つ優しい雰囲気が出しやすかった。後半部分の「 fall apart 」という言い回しは,俳人であるフーベル氏ならではのすばらしい表現である。 |
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in the fireplace
burning leaves slowly fall apart
and are gone |
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城北キャンパスの秋 (撮影:愛媛大学広報室) |
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1897年(明治30年) |
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12月 |
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行く年の
我いまだ老いず書を読まん |
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まさに生涯学習。自分の命がもう長くないと知り,その年末に作られた句。「 我いまだ老いず 」からは子規の強い想いが感じられる。写真は,石鎚天狗岳の一瞬をカメラに収めるために,政岡氏が朝早くから苦労して撮られた作品。 |
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the passing year
still wanting to read books
I don't grow old |
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石鎚山 (撮影:政岡孝) |
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1896年(明治29年) |
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※ 12月の石鎚山の写真は 「彩峰」 (さいほう) というタイトルがつけられ,
校友会事務局に展示してあります。 お気軽にお立ち寄りください。 |